ー1ー

4/5
279人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
 何気ない会話をしようとしていた千歳は、思わず藤真に攻撃的な言葉を口にしていた。言った後に千歳はその過ちに気付き、藤真と顔も合わせずに書類だけをそそくさと提出し、誰とも顔を合わせずにその場を去った。  僅か前の記憶が蘇る。しかし、千歳はそれを振り払う。今までと同じく藤真と接する事が出来ない。それが千歳に取っては苛立たしかった。  朝比奈千歳は常に非人道的であった。非人道的と言うのはおかしい。人間の血が通っていない様であった。常に一歩以上人から離れた立場を取り、誰にも接近しようとしなかった。それが千歳の処世術であったのだ。春休みに入る前までは。  神楽に強く誘われた春休みの追いコンで、千歳は思いもよらぬ事に出くわした。  酔っ払った勢いの過ちと言ってしまえば、それだけだと千歳は思う。寧ろ、そう思いたい。しかし、その事実は千歳の心を蝕んだ。千歳の心に突き刺さる言葉と行動は、そう容易く振り払う事が出来なかった。 「千歳ってさ、誰か好きな奴居る?」  酒に酔った藤真の揺らぐ視線。その後に続く言葉。 「俺が、千歳を好きだって言ったらどうする?」  明らかに酒に溺れて、藤真が千歳に唇を寄せた。千歳は瞬間、その言葉を理解出来ずにされるがまま、口付けを受け入れていた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!