ー2ー

2/15
前へ
/129ページ
次へ
 結局、神楽の言葉に千歳はそれ以上何も言う事もなく藤真の隣に席を取った。千歳が藤真に何かを言おうとする前に、講義が始まるベルが鳴って教室に講師が入ってくる。そのまま、千歳が紡ごうとした言葉は遮られた。  講義は講師の淡々としたマイクの声で進められる。普段と別段変わりもない。若干、私語が交じる講堂内も普段通りだ。  講義中に千歳は突然、片側を強ばらせた。左利きの千歳の右側。何気なく置いていた右手に、触れたものに瞬間的に拒否反応を起こす。何かと、視線だけを巡らせると、隣に座る藤真が千歳の手に自分の手を重ねていた。  千歳はそれを見ない振りをして、振り払った。触れた手の意味を測るよりも、嫌悪感の方が先に増した。  その後は何事もなかった様に講義の一時間半は過ぎた。  講義の終わりのベルが鳴ると、千歳はさっさとノートやテキストを纏めて席を立つ。逆側の隣に座る神楽が遅れを取るほどに早かった。 「千歳さあ、そんなに急いで何かあんの?」  別段慌てる様子もなく、藤真が千歳に声をかけた。 「何も。さっさと帰りたいだけだけど」 「本当に帰りたいだけかよ? お前、割と遅くまで部室に居るじゃねえか」 「藤真には関係ない」  千歳は藤真を見ないまま答えて、神楽を待って講堂を後にした。  講堂を出るなり、千歳の隣を歩いていた神楽が大きな溜息をついた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

279人が本棚に入れています
本棚に追加