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ぱたり、と藤真が千歳に必要以上に絡む事がなくなった。講義が同じ時は声をかけてくる。しかし、部室で待ち伏せたり、空き時間の千歳を追いかけ回す事はなくなった。千歳はほっとする。先日の藤真の言葉の真意は全く解らなかったが、気にしたのも数日で、千歳は単純に飽きたのだろうと思っていた。
普段通りに過ごせるようになり、千歳の張り詰め、疲弊した神経がようやく開放された。容易く苛付く事も少なくなり、平穏を感じる。
「あいつ、もっとマジかと思ってたんだけどな」
ふと、部室で神楽がこぼした。古い雑誌に目を落としていた千歳は神楽の声に顔を上げる。
「藤真さ。急に大人しくなっただろ」
「女でも出来たんじゃねえの?」
「それはないだろ。あれだけお前ばっか追い回してたんだからさ。諦める質じゃねえと思ってたんだけどな」
「当てが外れたな」
少し笑って千歳は再び雑誌に視線を戻した。
「千歳がようやく少しは人間っぽくなってきたの、面白かったんだけどな」
「人を娯楽にすんじゃねえよ、神楽」
残念そうに言う神楽に千歳は声だけで文句を言う。その声には全く苛立ちも嫌悪もない。言葉だけは神楽を非難しているが、文句にも聞こえない口調であった。
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