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ボルボのエンジンが激しく唸り声をあげている。
それでもウール エルデンは踏み込んだアクセルを緩めようとはしない
“ヴィンリーの bar” を出て以来、助手席に座る小室崎由香(こむろざきゆか)とは会話を殆んど交わしていない。
ウールはさり気なく由香の方に目を遣る。
彼女は夕べ一晩だけでは回復しない程の疲労が溜まっていたのだろう、助手席にもたれ掛かったまま首を右の窓の方に傾げて眠っていた。
ウールの脳裏にまたもや昨晩の記憶が甦る。
しかし先ほどより落ち着いて考える余裕があった分、今回は自制が利いた。
「あり得ない…」
ウールは一言そう呟くと、前に向き直って運転に集中した。
ウールの背後の低い位置から水平とも言える角度で西陽が射して来る。
その陽に照らされると、やがて直にあらゆるものが何かで縁取られた様にくっきりと立体的に見え始める。
そしてその瞬間を境に日は翳り始める。
空一面を薄い紫色のベールが覆っている様だ。
ウールが再び由香の方を見ると先ほどと同じ姿勢のまま、前方に広がる夕景色にただぼんやりと視線を投げ掛けていた。
それは、まるで彼女の意識がこの異郷の地に次々と舞い降りて来た黄昏色のベールに包み込まれてしまったかの様だった。
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