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更に陽は傾いていた。
気がつけば車内は既に濃い紫色に染まっていた。
助手席の由香の表情が愁えて見える
窓の外では西の空から仄かに降り注ぐ最後の陽の光の中で朧気に浮かび上がっていた田園風景が静かに夕闇に包まれてゆく。
そしてボルボのライトが照らし出した路面とエンジン音だけの世界が続いた。
時折、すれ違う対向車のヘッドライトが反って人恋しさを募らせる。
あの人口一千万を超える大都会に向かっているのだと言う事を忘れてしまう様な暗い夜道が限りなく続いている。
悠久の大地の日没は寂寞としたものだった。
遥か西の空、沈む夕陽の残光を浴びて尚もぼんやりと見えていた山々の稜線が次第に消えて行く頃、東方の空は静かに夜の幕を開く。
そして、その星々が煌めき始めた東の空に向かってウールと由香の乗ったボルボは走り続ける。
それは唸るエンジン音すら吸い込みそうな、何処までも澄んだ星空であった。
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