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暗い道の先に少しずつ街の灯が見え始める。
近づくに連れ、対向車の数も増え、規模は小さいものの真新しい郊外型の住宅地が見えると、もう街はすぐ目の前だった。
「ここから先は気が抜けない」とウールは穏やかに言ったが、その言葉よりも彼の強張ばった表情の方が、この街に踏み込む事の危険性を如実に物語っていた。
トルコとの国境に接するブルガリア側の街スピレングラートは、同国に於けるオリエント急行の最終駅としても有名な小さな地方都市である。
由香とウールの乗った青のボルボがこの街に入った時には、もうすっかり夜の帳が降りていた。
「今頃、奴等は間違いなく、俺達を捜してる筈だ」白い息を吐きながらウールが言う「この街を隈無く、目を皿の様にしてね」
スピレングラートの街に入るとウールは中心部には向かわず、直ぐに街の西側を抜けてギリシアとの国境付近まで車を走らせた。
そして手付かずの樹木が立ち並ぶ林を見つけると、ためらう事なく車を奥の方まで突っ込んで止め、直ぐ様ライトとエンジンを切ったのだった。
静寂と夜の闇と寒さが一気に二人を捕える。
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