2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと待ってくれない」由香も同様に白い息を吐きながら、しかし幾分、荒めの語気で言う「奴等って誰?何者?具体的に教えて、あなたの事も」
由香が言い終えると再び静寂の世界が戻って来る。
「ドイツに新しい民族主義団体ができて随分久しい」夜の闇の中、ウールの声が響く「いわゆるネオナチだね」
由香は黙ったまま続きの言葉を待っている。
「やがて、それがドイツ以外の国にも飛び火した」ウールの低い声が由香の心を優しく揺する「その1つがブルガリアにあり、そしてそこの代表者が…」
「イヴァン ジェレフね」由香は動揺する胸の裡を隠す様にクールに言った。
澄んだ冬空の遥か高みでは、無数の星々が静かに瞬いている。
溢れんばかりの星影が冷気と共に地表へと舞い降りて来る。
「あなたの事を話してくれない?」由香は運転席の方を向いて言った。
暗闇に目が慣れたのだろうか、ほんの僅かな光の中にウールの横顔が浮かんで見える。
「ネオナチ自体は大したものじゃない、寧ろ取るに足りないものだ」ウールは話題を変えようとはしない
「要は感情の問題なんだ」
ウールの声が僅かに震えたのは、寒さのせいではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!