着ぐるみ

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着ぐるみ

 時給の良さに惹かれ、遊園地で着ぐるみに入り、客引きをするバイトを始めた。  やったことがある奴には判ると思うが、あれはかなりの重労働で、熱いは重いはと、半日も来ていればごっそり体力を奪われるしものだ。  でもバイト代に目がくらみ、俺は一週間フルタイム着ぐるみというスケジュールに頷いた。  体力には自信があった。でも日増しに体どころか気力が萎え、最終日前日にはもう、翌日出勤などできるだろうかという有り様になっていた。  それでもやると言ったのは自分だし、約束の一週間、きちんと着ぐるみ生活を果たしたら、臨時のボーナスももらえることになっている。  だから最後の気力を振り絞り、俺は熱く重たい着ぐるみの中、精一杯のパフォーマンスで客引きをした。  でもやはり限界は迫っていて、最終日の昼休憩の時に着ぐるみを脱いだら、あまりの開放感に気持ちが緩んで、そのままうっかりうたた寝してしまったのだ。  目覚めて時計を見た瞬間、俺は青ざめた。  最終日は、着ぐるみが何体も参加するちょっとしたアトラクションが開催されることになっていて、当然俺の着ぐるみも出演予定だ。  なのに時計はとうにその時間を過ぎている。  せめて今からでもと思い、俺は着ぐるみに手を伸ばそうとした。だが、隣に脱いで置いた筈の着ぐるみがどこにも見当たらないのだ。  もしや、誰かが俺を起こしに来てくれたけれど、どうしても起きないから、仕方なく着ぐるみを来てアトラクションに参加してくれたのだろうか。  だとしたらとてもあれがたいが、同じくらい申し訳がない。  とりあえず現場に行って、アトラクションが終わったら肩代わりしてくれた人に謝ろう。  そう思い、俺は慌てて楽屋を後にした。  アトラクションはもう終盤だった。  数体の着ぐるみがナレーションに合わせてあれこれと動き、フィナーレとなる、一列に並んで手を繋ぎ、万歳を繰り返す仕草に向かっている。  いったいだれが俺の代わりにあそこに立ってくれたんだろう。あの着ぐるみはあの人だし、あっちはあの人だし…と、肩代わりしてくれた人を特定しようとしていた俺の目の前で…いや、居合わせた全員の目の前で、その異常事態は起こった。
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