第2章 相手の正体

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 翌朝。いつも通りに出勤した弘樹は、他部署に書類を提出してから、ある人物にメールで問い合わせしてみようかと考えを巡らせていた所で、タイミング良くその相手が廊下の向こうから歩いて来るのが見えた為、満面の笑顔で右手を振りながら声をかけた。 「き・み・こ・さ~ん!」  偶々、その光景を目にした社員が、何事かとギョッとした顔で弘樹と相手を交互に見やる中、彼より二回りほど年長の笹木公子(きみこ)は、無言で僅かに顔を顰めながら彼に歩み寄った。 「……何でしょうか? 遠藤係長」  冷え冷えとしたその口調は、(くだらない事で人目もはばからずに呼びかけたんだったら承知しねえぞ、この若造が)との剣呑な空気を如実に醸し出していたが、弘樹は全く恐れ入る様子を見せずに、気安く言葉を返した。 「またまた~、そんなつれない態度を取らなくても。俺と公子さんの仲じゃないか。いや~、ここで会えるとは、正に天の助け!」 「ここは職場ですので、さっさとご用件をお願いします」 「う~ん、そんな公私混同しない、公子さんが好きだなぁ。……実は、半分は職場に関わる事だから、少しだけ融通を利かせてくれると、もの凄く助かります」  台詞の途中で急に真顔になり、軽く頭を下げた相手を見て、さすがに公子は訝し気な顔になった。 「どういう事ですか?」 「社員が一人、辞めるか辞めないかの瀬戸際かもしれないんだ」 「穏やかではないですね。そしてその原因があなただとしたら、もっと穏やかでなくなりますが」 「責任の一端が俺にあるかもしれないけど、大部分はダチだから」  そんな事を言われて、公子は眉間にしわを寄せたが、相変わらず弘樹が真摯な表情で佇んでいる為、話の先を促してみた。
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