第2章 相手の正体

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「か、香奈先輩。こんな人目がある場所でそんな事……」  廊下は彼女達と同様に、昼食を取る為に食堂や外部の店に出向く社員が行き来しており、その人達に聞かれてはと顔色を変えたが、香奈はあっさりしたものだった。 「皆言ってる事だし、本人もそれを耳にしてもヘラヘラ笑ってるから大丈夫よ。それに私、そもそもタレ目って生理的に受け付けないのよね」  あまりにも露骨な蔑むような物言いに、綾乃は流石に同意するのを躊躇われた。 (えっと、確かに目尻が下がってたけど、その分人懐っこそうな印象だったけどな……。だけど私の所属先を調べたり、社内メールを送れた訳が分かったわ。思い切り公私混同したって事だよね。確かにチャランポランのバカボンかも……)  香奈に負けず劣らず失礼な事を考えていた綾乃に、香奈が続けてもう一人の人物について言及する。 「高木さんも同じ二十九歳で、遠藤さんとは大学時代からの親友だそうよ。所属は営業二課で今の所は一応フリー? 取り敢えず遠藤さんみたいに同時進行してない分、マシだとは言えるけど、相手に飽きたらすぐにこっぴどく振るって噂なのよね」 「あ、あの……、『遠藤さんみたいに同時進行』って……」 「二股三股四股って事」 「本当に居るんですね、そういう人……」  思わず疑問を呈した綾乃だったが、淡々と返されて言葉を失う。それを見た香奈が、肩を竦めつつ客観的事実を述べた。 「タイプは違うけど二人ともそれなりに顔立ちは整ってるし、遠藤さんは社長の息子、高木さんは営業部のホープで将来性はあると思われてるの。加えて遠藤さんは誰彼構わず愛想が良いし、高木さんは無愛想だけどその冷たい所が良いって、社内独身女性の格好の的なのよ。私は趣味じゃないけど」 「はぁ……」  半ば呆然と綾乃が相槌を打つと、通路の向こう側から社員食堂へと入ろうとしている一団が目に入った。それ見た瞬間綾乃は表情を凍らせ、横から香奈が呆れた口調で解説を入れてくる。 「噂をすれば影ね。相も変わらず取り巻きを引き連れて、ご苦労な事。遠藤さんの周りに居るのがその四股かけられてる連中で、高木さんの周りに居るのが恋人の座狙いの連中よ」 (うっ、やっぱりあの二人……)  さり気なく香奈の背後に隠れるように移動しつつ、こっそり様子を伺いながら観察すると、そんな綾乃の行動を不審に思いながらも、香奈が斜め後ろを振り返りつつ再度確認を入れた。
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