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「でも綾乃ちゃん、本当にあの二人の事、今まで知らなかったの?」
「……はぁ」
(いつもあんなに引き連れて歩いていたなら、気付いててもおかしくないのに、やっぱり私、相当鈍いのかな?)
日頃気にしている事を思い返した綾乃が密かに落ち込んでいると、香奈が急に厳しい口調になって言い出した。
「言っておくけど綾乃ちゃん、あの二人に不用意に近付いちゃ駄目よ? あの取り巻き連中に睨まれて、えげつない嫌がらせをされるから」
「え?」
「以前、私の同期が連中の隙を見て果敢にアタックしたけど、バレて嫌がらせされた挙げ句、自主退職に追い込まれちゃったのよ」
「…………」
予想外の事を聞かされて、完全に絶句した綾乃に、香奈が容赦なく追い討ちをかける。
「あの連中も一見仲良さげだけど、陰で本人達に分からない様に結構激しい鍔迫り合いをしている筈だし。あの二人にとっての一番、唯一になろうとしてね?」
「怖っ……」
思わず涙目で本音を漏らすと、香奈は真顔で言い聞かせてきた。
「でしょう? だから綾乃ちゃんみたいな若くて可愛いタイプは、あの二人を見かけたら回れ右した方が良いわ。普通に挨拶しただけでも、取り巻き連中に嫉妬されて難癖付けられかねないもの。あの人達揃ってアラサーで、色々崖っぷちで焦ってるしね」
「いえっ……、それはっ」
後半はどこか面白がっているように聞こえたが、可愛いと言われた事に綾乃がわたわたと動揺しつつ、漸く先程のメールで気になった内容の意味が理解できた。
(なるほど、あの人が直接社内で謝りに来れない訳が分かったわ。誰の目に触れるか分からない場所でそんな事をされたら、絶対噂になって下手すれば「何あの二人に頭を下げさせてるのよ!」とか難癖を付けられて、忽ち制裁対象……)
そこまで考えて通路に立ち尽くしたまま真っ青になった綾乃を見て、香奈は少々焦りながら声をかけた。
「ねぇ、綾乃ちゃん、本当に大丈夫? 何だか顔色が真っ青よ?」
「だっ、大丈夫です! 何でもありませんから、お気遣い無く!」
「そう? それなら良いんだけど……」
そんなやり取りをしながら何気なく食堂の入り口に目をやると、例の一行が中に入るところだった。そして中心にいた人物の視線と、綾乃のそれが絡み合う。
(え、何か今、目が合った?)
そう思ったのはほんの一瞬で、すぐに一行は食堂内に消えたが、綾乃は恐れおののいた。
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