第3章 謝罪にならない謝罪

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 社内メールを密かに私用で使わせて貰い、弘樹や祐司と幾つかのやり取りを経てから数日後。綾乃は会社帰りに眞紀子と待ち合わせて、祐司から指定された場所に向かった。 「本当にごめんなさい眞紀子さん。こんな事に付き合わせちゃって」  綾乃は歩きながら恐縮して軽く頭を下げたが、眞紀子は豪快に笑い飛ばした。 「ここまで来て、今更気にしないの。だって一人で出向くのは嫌だけど、その連中が会社では有名人だから、下手に会社の同僚とか先輩とかに頼めなかったんでしょう?」 「はい……」  綾乃が(本当に私って意気地無しだわ)と密かに落ち込んでいると、眞紀子が急に難しい顔になって言い出した。 「その二人、この前会った時、確かに顔立ちはそれなりに整っていたとは思うけど。だけど綾乃ちゃんから経過を一通り聞いて、ちょっと気になった事があるのよ」 「何ですか?」  キョトンとして拳一つ分程上背がある眞紀子を綾乃が見上げると、その視線を受けつつ眞紀子が確認を入れた。 「諸悪の根源の名前は、高木って言うのよね?」 「はい、高木祐司さんです。あの後社内メールで食事の希望内容を連絡した時、当日の事を返信で謝って貰いましたし、見た目はちょっとキツそうですけど、そんなに悪い人ではないんじゃないかと」  考え考えそう口にした綾乃に、眞紀子が疑惑の目を向けた。 「もう一つ確認するけど、綾乃ちゃんが携帯電話を拾った時、『弟が失礼した』って電話で謝った人は『宇田川』って名乗ったのよね?」 「はい、そうですけど、それが何か?」  そこで眞紀子は素朴な疑問を呈した。 「どうして姉弟で名字が違うの?」 「それは……、お姉さんがもう結婚されているとか?」  一番あり得そうな可能性を口にした綾乃だったが、そこで眞紀子が冷静に突っ込みを入れる。
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