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「伊万里ー」
後ろから圭の声がして、僕は腕を下ろした。振り返り「どうしたの」と問いかける。
圭は洗濯カゴを片手に自分の服を入れていた。
「伊万里は洗濯物、ないの?」
「あぁ、じゃあパン屋のエプロンと、ジーパンも」
僕は洗い物を後にして、洗濯物を取りに行く。そのあとをついてくる圭。ガタイがいいくせに、なんとなく小動物みたいな行動だ。
「今日はなんのバイトだ、伊万里?」
バッグからエプロンを出していた僕は、しゃがんだまま圭を見上げた。
「ホテル」
「は?」
キョトンと口を開く圭に、僕は「ホテルだってば」と繰り返す。カレンダーにも書いてある。"ホテル"って。
「僕のシフトはちょっと遅めだから、帰りも遅いよ。夜ご飯、どうしようか」
すぐそばの目覚まし時計を見れば、針はもう八時をさす。そろそろ支度をしなければ。
「いや、晩メシとかじゃなくて、ホテルってどんな仕事?」
「どんなって……接客」
エプロンとジーパンを圭が抱えるカゴに入れて「洗濯頼むね」とカゴを叩いた。
まだ何か言いたそうな圭をおいて、洗い物を片付け、備え付けのクローゼットを開きスーツを取り出す。
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