第2章

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初めてバカって言われた。なんて一瞬思っていたうちに、ネクタイはパッと奪われた。 向かい側に立つ圭がネクタイを首に回してくる。 「ほら、まずこう。こうしてこうして、これでよし」 「……はやい」 ぽん、とネクタイの結び目をつつかれて、僕は初めて圭を尊敬の眼差しで見た。 「な、簡単だろ?」 「よくわかんなかった」 「なっ!」 早すぎだし、圭の手に隠れてほとんど見えなかったし、自分でするのとやってもらうのでは逆だし。とかなんとか言っているうちに時間が迫ってきた。 「もう行かなきゃ」 「じゃあ、帰ったらまた教えてやんよ」 傾いていたのか、チョイとネクタイを直した圭が笑う。僕はいつもと少し違う気分で家を出た。 ……今日は帰ってくる? って、聞きそうになった。 いつの間にか慣れてしまった二人での食事。 安眠が保証されるのに、一人だとなんだか寝心地が悪い夜。 昨日の夜が、淋しかったとかそんなんじゃない。 騒がしいのがいなかったから、その差を忘れていただけだ。 今日も自転車に乗り、出発。スーツのズボンではあまり快適とは言えないが、贅沢は言えない。
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