第2章

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今日行くのは駅前のビジネスホテル。 昨日のパン屋が隣町だから、昨日よりは近い。指定された従業員専用の駐車スペースのはしっこに自転車を止めて、裏口から入る。 事務所の前で自分の名前のタイムカードを探していると、事務所の中から手を振られている事に気付いた。 「おはようございます」 「おはよ、伊万里くん。あれ?」 事務所の扉は開けっ放しで、ペコリと頭を下げると手を振っていた女性がこちらに向かってくる。 「あーれー? ネクタイしめてきてるぅ」 そんなつまんなそうに口を尖らせなくても。 「友人がやってくれまして」 「彼女でしょーぉ?」 いや、絶対に違う。 「男ですよ、同居人です」 「えー、絶対彼女のオウチにお泊まりして、そのままここに来たんでしょおぉ?」 なぜそんなに疑う? 僕は「そんなんじゃないですって」と苦笑いしながら、タイムカードを探しだし始業した。 毎回ネクタイをしめてくれているのが、こちらの女性で安住(あずみ)さん。目元のメイクは濃いめで、仕事が真面目なぶん、裏に来ると性格が変わる人だ。 「もー、伊万里くんのネクタイしめるの、楽しみにしてたんだからね」
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