第2章

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専務が「今日も頼むね」と笑顔で去っていくと、安住さんの肩がやっと定位置に降りてきた。 「よし。行くわよ、伊万里くん」 「は、はい」 カツカツと低めのヒールを鳴らす安住さんが、くるりと後ろを振り返った。 「伊万里くん、とってもかわいい」 「はい?」 「かわいいんだけど、仕事の時は髪、ちょっと整えた方がいいかもよ」 見た目、服装、頭髪についての注意に、変な前置きをつけないでほしい。 僕は「すみません」と謝ってから、両手で髪の毛をかきあげ、何度か撫で付けた。オールバックまでいかず、前髪は少し垂れるけど、サイドをまとめればスッキリするかと思って。 見ていた安住さんが感心したようにぐるりと僕の頭を見回す。 「え、これワックスとか使ってないよね」 「使ってないです」 頭洗ってなくて髪の毛ベタベタ、という事もない。 「すごーい、それって……うーんと、超合金……記憶喪失?」 「形状記憶、じゃなくてですか」 忘れちゃダメじゃないかな。 あはは、と笑う安住さんの歩調が早まった。そのまま staff only の扉からホテルのフロントに入る。
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