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まだ仕事前なのに、疲れたような気がする。いや、そんな事は言ってられないけど。
「今のはね。扉を開けて先に出ていったのが、お姉さんの奈乃羽さんだよ」
わかんないよ。
僕はすでに閉じられたドアを見つめた。
安住さんの方が一足早く仕事モードに入ったので、僕も頭を切り替える。
今日はホテルのフロントのバイトだ。
この時間なら、チェックアウトのお客様の手続きとお見送り。そしてロビーの掃除の手伝いが僕の仕事。
僕は直接お金に触れる事はなく、基本的には安住さんの隣に立ち「ありがとうございました」と頭を下げるのがほとんどだ。
あとは、ロビーでくつろぐお客様にコーヒーを出したり。
「伊万里くん、そろそろお客様降りてくるからね」
「はい」
「満面じゃなくていいけど、笑顔でね」
仕事に真面目な安住さんだ。僕の教育係というか世話係というか。いや、つまりよく見られている。
どんな仕事よりも難しい事を、サラッと言うのだ。
「……はい」
僕の返事を安住さんは優しく受け止めてくれた。
「難しかったら、口角をちょっと上げるだけでもいいよ」
裏でもこうならいいのに。
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