第2章

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ロビーに展示されている"伊万里焼"だ。 父が好きで僕につけた名前ではあったけど、僕は骨董や焼き物にはそれほど興味がない。だから駅前のビジネスホテルのロビーのはしっこに飾られている色鮮やかな壺や、大皿をそれほどよく見た事はなかった。 相変わらずの無表情だとは思うが、内心オドオドしっぱなしの僕を、安住さんが手招きして呼んだ。僕は表面だけ、毅然とした態度でフロントから出る。 今は仕事中なのに、なにをボーッとしてるんだ。と、心の中で自分を責めながら。 「伊万里くん、こちらは柿崎様よ。この壺や大きなお皿は伊万里焼というの。私も専務に聞いたくらいしか知らないんだけど……」 僕は初めて、この伊万里焼をまじまじと見た。六角形の壺に鮮やかな赤い花と、赤い……鳥? 大皿は近くで見ると深さがあり、全体の朱色が細かい模様を描いて惹き付けられる。 僕の横に柿崎様が並んだ。僕はすぐに背筋を伸ばし、お客様に一礼する。 「うん、ゆっくりと見てやっておくれな、伊万里くん」 薄い眼鏡を鼻に乗せた六十代くらいの男性だ。わずかに曲がった腰に後ろで手を組み、大皿の模様を眺めている。
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