第2章

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柿崎様は専務に目もくれず、僕へ優しげな表情を浮かべて言った。 「うん、磁器製造の創始は1610年代であるといわれている。それから30年の間に作られた初期製品を初期伊万里というんだ。この頃の伊万里は、白磁に青一色で模様を表した染付磁器が主で……と、詳しく話してもわからんわな、うん」 まるで世界史の授業を聞いているようだった。柿崎様は教師に向いているのではないかと思う。 「まぁ、簡単に言えば、はじめは白地に青の一色だった古伊万里が、時を経て、沢山の人と出会い、技術を受け入れ、今の伊万里焼のように赤や黄、何色もの色を鮮やかに染め付けてきたんだ、うん。 君は今、色々な事にがむしゃらになっているかね? 何でもやるといい、失敗も良い。それが君を染め付ける色になっていくのだよ、うん。 わたしにはとうとう、色は付かなかったけどねぇ……うん」 柿崎様は去り際に少し淋しそうにそう溢すと、安住さんに案内されて部屋に戻るためにエレベーターへ向かった。僕はそれを見送り、専務と一緒に伊万里焼の前にいる。 専務が柿崎様を真似て、伊万里の皿を爪で弾いた。
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