見てはいけない!

3/9
前へ
/827ページ
次へ
沙弥が目を開けようとした瞬間…今までの記憶が甦った… 初めての営業で、取引先を待たせ上司から激が飛び、泣きながら(この)電車に乗り目を瞑り帰った事… しつこい変質者に追われて、逃げるように(この)電車に乗った時も、目を瞑り帰った… 思い起こせば、沙弥は(この)電車に乗り帰宅をする時、必ず目を瞑り瞑想していた…眠い訳でもないのに、ただそれを一つのルーティーンとして習慣的に行っていた。 クスッ…   沙弥は苦笑した、考えて見れば可笑しい…誰に言われた訳でもなく、それを行ったから良い事が、あった訳でもない… それなのに、この電車に乗ると必ず目を瞑る… そうよ…目を瞑ったりするから、男の人が調子に乗って、仕掛けてくるのよ! 目を開けてれば、相手も変な行動は取らない筈よ。 沙弥は目を開けようとした…  その時! 「災難ですね…奴らが前に立つなんて…」 隣の男性は沙弥に声を掛けた。 「えっ…奴ら…?」 沙弥は聞き直した。 「怪しい者ではありません、私の話を目を開けずに聞いて下さい。」 男性は優しい声と口調で、囁くように話した… 「待って下さい…いきなり知らない方から、目を開けるなと言われても、信用する訳が」 沙弥がうっすら目を開けようとした時! 男性が低い声でハッキリと言った。 「開けるなっ!」 ジジッ…! 微かに開けた沙弥の視界に、薄明かりでつり革が汚れたロープの車内に、前に立つ男の脚が…靴からはみ出した尖った爪とボロボロのズボンの脚が一瞬見えた。 ゴゴゴゴゴゴ・・・・・! 「ひっ…!」 沙弥は小さな悲鳴を挙げた。 「騒がないで、目を閉じていて下さい、そうすれば、貴女はたすかりますから。」 助かる…!?何で私が…  ただ…いつもの電車に乗っているだけなのに… 沙弥は現状を理解できず、耐えきれない思いから涙をこぼした… 「目を開けずに聞いて下さい…これから私が話す…恐ろしい現実を…」 男性は優しい声に戻ると、語り始めた…
/827ページ

最初のコメントを投稿しよう!

425人が本棚に入れています
本棚に追加