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沙弥が目を開けようとした瞬間…今までの記憶が甦った…
初めての営業で、取引先を待たせ上司から激が飛び、泣きながら(この)電車に乗り目を瞑り帰った事…
しつこい変質者に追われて、逃げるように(この)電車に乗った時も、目を瞑り帰った…
思い起こせば、沙弥は(この)電車に乗り帰宅をする時、必ず目を瞑り瞑想していた…眠い訳でもないのに、ただそれを一つのルーティーンとして習慣的に行っていた。
クスッ…
沙弥は苦笑した、考えて見れば可笑しい…誰に言われた訳でもなく、それを行ったから良い事が、あった訳でもない…
それなのに、この電車に乗ると必ず目を瞑る…
そうよ…目を瞑ったりするから、男の人が調子に乗って、仕掛けてくるのよ!
目を開けてれば、相手も変な行動は取らない筈よ。
沙弥は目を開けようとした…
その時!
「災難ですね…奴らが前に立つなんて…」
隣の男性は沙弥に声を掛けた。
「えっ…奴ら…?」
沙弥は聞き直した。
「怪しい者ではありません、私の話を目を開けずに聞いて下さい。」
男性は優しい声と口調で、囁くように話した…
「待って下さい…いきなり知らない方から、目を開けるなと言われても、信用する訳が」
沙弥がうっすら目を開けようとした時!
男性が低い声でハッキリと言った。
「開けるなっ!」
ジジッ…!
微かに開けた沙弥の視界に、薄明かりでつり革が汚れたロープの車内に、前に立つ男の脚が…靴からはみ出した尖った爪とボロボロのズボンの脚が一瞬見えた。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・!
「ひっ…!」
沙弥は小さな悲鳴を挙げた。
「騒がないで、目を閉じていて下さい、そうすれば、貴女はたすかりますから。」
助かる…!?何で私が… ただ…いつもの電車に乗っているだけなのに…
沙弥は現状を理解できず、耐えきれない思いから涙をこぼした…
「目を開けずに聞いて下さい…これから私が話す…恐ろしい現実を…」
男性は優しい声に戻ると、語り始めた…
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