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人は何かを背負って生まれてくる。
赤ん坊は真っ白な状態で生まれる純粋無垢な存在だとか、子どもは無限の可能性を秘めているとか、生まれた時は皆横一線だとか、そういう甘っちょろい言い草を僕は絶対に、信じない。年若いゴルファーが史上最年少記録を打ち立てたというニュースなんかを聞くと、羨望よりもまず虫唾が走る。糞くらえ、と思う。運が良かっただけだと鼻先で笑う。だって、実際にそうなのだ。札束に埋もれるように生まれてくる者もいれば、借金まみれの家に生まれる者もいる。両親が待ち焦がれた末に降りてくる命もあれば、誕生してすぐに親によって絶たれてしまう命もある。どんな風に自分が生まれてくるかなんて、誰も選べやしない。僕だってそうだ。のっぴきならない事情の下で僕は生まれ、その後さらにのっぴきならない事情が周囲で起きた。僕のあずかり知らないところで起こったのっぴきならなさが、その後の僕を不当に苦しめ、僕の生に不当にのしかかってきた。
赤ん坊は純粋無垢な存在なんかではない。その内側には既に一冊のシナリオが描かれていて、一人一人はただ忠実に来る日も来る日もそれをなぞっているだけなのだ。僕たちは皆、虚しい演者にしか過ぎない。そして僕は今日もお決まりのセリフを呟き、決められた動きをする。シナリオの主役はいつも誰かに奪われ続けて、いつもいつも僕はどうでもいい脇役に甘んじてきた。仕方がない。どうせ自分は、そういう風に生まれついてきたのだから。
枕もとの目覚まし時計がけたたましく鳴る。
目を覚ました僕は急いで音を止める。この築うん十年という木造の古アパートは壁がとても薄く、うっかりすると隣の人も起こしてしまう。前に疲れきった僕が眠り込んで時計のベルを暫く放っておくと、その日のうちに隣のおやじから苦情が飛んできた。深夜に洗濯機を回していると、すぐさま階下からおばさんの文句が突き抜けてきた。この狭くて風呂のない、家具も満足にない一室で、僕は息を潜めるように暮らしてきた。それでも、少し前まで住んでいた児童養護施設の金魚鉢のような空間に較べたら他者という目がないだけでも、ずっとましだ。何しろあそこではベッドで妄想ひとつ耽るのでさえ、ままならなかったのだから。
時計は四時十分を指している。もう一度眠り込んでしまわないように僕は頭をぶるるっと振る。頭の靄がようやく抜けると僕はせんべい布団から這い出て、
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