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苛まれる日々だ。
とどのつまり、新しい生活は僕という人間までをも、新しく変えてはくれなかった。
またも目覚まし時計がけたたましく鳴る。
新聞配達から帰ってきた僕はもう一度布団に潜って眠り込んでいたが、のろのろと手を伸ばして音を止める。ちょうど八時だった。僕は起きる気力も根性もなく、もう一度頭から布団をかぶった。今日から大学の講義が再開されることは百も承知だったけど、そんなことはもうどうでもよかった。なるようになれ、だった。行き着くところまで行き着けば、その時は諦めもつくだろう。深いぬかるみにずぶずぶ落ちていくように、僕はもう一度寝入りかけていた。
今度は玄関のブザーがけたたましく鳴る。
驚いた僕は上体を急いで起こし、頭を掻いて考える。こんな早朝に人の家に押しかけてくるのはあいつしかいない。そう思った僕はまたも布団をかぶる。無視しているとブザーが二度、三度と鳴った。まるでいきり立っているかのような鳴り方だ。ついに観念した僕はのろのろと起き上がって玄関へと歩く。インターホンなどという洒落たものは当然ここにはない。トイレに付いているような安っぽい鍵を外すと、
「もう、豊。さっさと開けてよ」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、やっぱり中西真理絵だった。少しだけ唇を尖らせている。
「一体何だよ、こんな朝早くから」
僕はあくびをしながら面倒くさそうに呟く。
「何だよって、今日から第二セメスターが始まるでしょう? 第一セメスターでは単位落としまくったって豊、こないだ言ってたじゃない。もうこれ以上落としたら来年二回生に上がれないのよ。うちの大学はよそより厳しいんだから」
真理絵が熱弁すると後ろでまとめたロングヘアが軽く揺れた。チェックシャツの首もとで光るハートのイヤリングが少し可愛い。
「だから、わざわざ来たってわけ?」
僕はわざとぶっきらぼうな声を出す。
「何よ、その言い方。人がせっかく親切で来てあげたっていうのに」
真理絵はそう言うとドアの内側に入り、断りもなしに上がりこんで狭い室内をざっと見回す。奥の六畳間には何日も敷きっぱなしの布団。手前の狭い台所にある小さな流しには、カップ麺の容器が三角コーナーに重ねて捨てられている。脱ぎ散らかされた服。床は埃だらけ。我ながら本当に酷い部屋だと思う。
「相変わらず汚い部屋」
腕組みをしながら真理絵は呆れている。
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