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「うるせえな」
口先では毒づきながらも、彼女の干渉にどこかで安堵している自分もいる。
「どうやら今まで寝てたみたいね。朝ご飯まだなんでしょう?」
僕が降参したようにこくりと頷くと、真理絵はジーンズのポケットからスマホを取り出し、やだ、もうこんな時間、と呟く。
「ほら、お弁当作っておいたよ。もう時間がないからこれは休み時間に食べることにして、さっさと着替えたら? 私、下で待ってるから」
真理絵がトートバッグから取り出した包みを僕はサンキュー、と受け取りながら、
「別に一階で待ってなくていいよ、真理絵。一人でもちゃんと大学に行くし」
と、一応強がってみせる。
「それが信用できないから待ってるって言ってるんじゃない。豊一人ならまた寝ちゃうでしょう? 全く世話が焼けるんだから」
真理絵はそう言い放つとさっさとドアを閉めて外に出ていった。ああ、鬱陶しい、と僕はぼやきつつ簡単に歯磨きを済ませ、その辺に落ちているGパンとシャツに着替えてさっきのウインドブレーカーを羽織る。下に降りていくと、自分の自転車にまたがった真理絵が待っていた。僕たちは並走しながらここから十分ほどのキャンパスへと急いだ。
大学の駐輪場に自転車を止めていると腹の虫が鳴った。それを聞いた真理絵が笑い転げている。
「新聞配達の時から何も食ってないし、腹減った」
講義棟に向かって一緒に歩きかけながら僕はみぞおちを押さえる。
「これ、あげる」
キャンディのように包まれたチーズ数個を真理絵はバッグから差し出した。ありがと、と受け取り、それらを一度に口に放り込むと、やや気が早いけど、少しずつ脳と体に栄養が行き渡っている心地がしてくる。チーズの包装紙を僕がその辺に適当に捨てると、
「ほら、ちゃんとゴミ箱に捨てなさい」
と、すぐさま真理絵に叱られた。僕が渋々それを拾っていると、自転車に乗った女の子がスピードを落として近づいてくる。真理絵の友人で優子という子だ。中西ちゃんお早う、と彼女は自転車を止め、真理絵の耳元で囁いた。
「何だか仲いいね。彼氏?」
「そんなんじゃあないって」
真理絵は少し頬を赤らめて困ったように笑う。
「本当? 怪しいなー」
優子は笑いながらそのまま過ぎ去っていった。わずかな間合いの後に真理絵と僕は弱ったな、という風に互いを見つめ合う。空気の粒子が一斉に向きを変えたかのような
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