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息が苦しい。
私は、見送りにも来て欲しくない相手なんだろうか。
チュウくん達が相沢の上京の見送りに行くことは知っていて、私も行くつもりでいたのに。
眉が寄って、目を伏せた。
「ウチの天使がレンと別れるところに、渡瀬にいて欲しくないんだ」
「……どういう、こと?」
「だって俺らは……“別れ”じゃないから」
「…………っ、」
相沢の言ってることは、頭の中ではごちゃごちゃしてて、でも心では了解した。
コクリと頷いた私に、相沢は満足そうに笑って一度頷いた。
「あの時言った事……覚えてる?」
「あの時?」
「夏祭り」
それなら、忘れもしない。
『少しずつでかくしてさ、いつか、どかーんとでかいヤツ、打ち上げるから』
相沢の一言を思い出して頷いた。
「少しずつ、大きな花火に変わってるよ」
「ははっ、だろ」
相沢は嬉しそうに笑って、一度、目を伏せた。
「応援、してるから」
「ん、」
「私、相沢の事、ずっと応援してるから」
両手を握りしめた私に目を細めて、そして、真剣な眼差しでじっと見つめた。
「……椛、」
…………え?
初めて私の名前を呼ぶ声は少し、低く。
驚く私にスッと近づいて、
相沢は、キスを、した。
息が止まった。
目の前には金髪が揺れ、唇が暖かい感覚もする。
思考回路は停止。
心臓フル活動。
ゆっくり顔が離されて、
「ありがとう」
相沢は呟いて、鞄を手にドアへと向かい、固まる私をゆっくり振り返った。
「でっかい花火、打ち上げてくる!」
少し大きな声に、我に帰って、
「うん!」
同じように大きい声で返事したら。
「行ってきます!!」
相沢は、キラキラの眩しい笑顔に輪をかけて、満面の笑みで手を振ると教室を出て行った。
「……ッ、――っ」
涙は勝手にあふれ出て、ぼたぼたと流れ落ちる。
唇を噛み、一度ぐるりと教室を見まわして、そして私も教室を出た。
既に静かになった廊下、玄関には背の高い影。
「椛」
私を呼ぶチュウくんを見たら、涙はますます流れ出て。
「チュウくんっ」
嬉しいのか悲しいのかわからない自分の感情そのまま、私はチュウくんに飛び込んで、
声をあげて、泣いた。
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