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学祭を来週に控えた今日、
「ねぇ、来週本番だよ?」
私は目の前でたった今弾き終えたやつらにそう言った。
「ちょっとちょっと、渡瀬ちゃん。何その憐れんだ目は」
山本改めモトくんは、頬を膨らませてドラムセットの奥から私をじっと見た。
「いや、実際憐れだなと思った」
「ひでー!!」
「だってステージに上がって披露する音じゃないよ。こんなんじゃ、客が憐れむよ」
そう、こいつら本当に練習してたのかというほど、ひどい気がする。
頬杖をついてため息ついた私に、チュウくんが困った顔をした。
「いや、それぞれは出来てると思うんだけどなぁ」
言いながらつま弾くベースラインは、決して悪くはない。
「だーかーら、お前ら自分ばっか集中しないで、みんなの音聞けって俺何度も言ってるよね?」
相沢はそう言いながら大きくため息をつくと、机によいしょと座って胡坐まで書いた。
抱えたギターを膝に乗せて、アンプの電源を切った状態のギターからは弦が弾かれる音とピックがギターにぶつかる音が聞こえる。
何気なく動かされた左手は軽快にギターのネックを滑り、難しいテクニックを繰り出した。
それに私がくぎ付けになっていたところで、山田改めヤマちゃんが相沢に声をかけた。
「なー、アキー。明日の土日、練習できるー?」
相沢はゆっくり顔を上げ、最後にはじいた弦の余韻を残しながら、頭の上で大きくバツを作った。
「出来ませーん。だって俺、桜花の学祭行くもん」
「えっ!まじでっ!?俺も行きたい!」
「おれもいきてーし!」
「俺も俺も!一緒に行こうぜ、アキ!」
桜花とは街の東のはずれにある桜花学園という高校。
どうやらそこの学祭があるらしい。
騒ぐ三山トリオを相沢は見据え、さっき作ったバツをもう一度作った。
「だめー。俺、バンドメンバーと行くから」
「いいじゃん、俺らもBSとご一緒させて!」
「ダメ。っつーか、お前らちゃんと練習しろ!」
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