2/8
134人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
* 学祭を来週に控えた今日、 「ねぇ、来週本番だよ?」 私は目の前でたった今弾き終えたやつらにそう言った。 「ちょっとちょっと、渡瀬ちゃん。何その憐れんだ目は」 山本改めモトくんは、頬を膨らませてドラムセットの奥から私をじっと見た。 「いや、実際憐れだなと思った」 「ひでー!!」 「だってステージに上がって披露する音じゃないよ。こんなんじゃ、客が憐れむよ」 そう、こいつら本当に練習してたのかというほど、ひどい気がする。 頬杖をついてため息ついた私に、チュウくんが困った顔をした。 「いや、それぞれは出来てると思うんだけどなぁ」 言いながらつま弾くベースラインは、決して悪くはない。 「だーかーら、お前ら自分ばっか集中しないで、みんなの音聞けって俺何度も言ってるよね?」 相沢はそう言いながら大きくため息をつくと、机によいしょと座って胡坐まで書いた。 抱えたギターを膝に乗せて、アンプの電源を切った状態のギターからは弦が弾かれる音とピックがギターにぶつかる音が聞こえる。 何気なく動かされた左手は軽快にギターのネックを滑り、難しいテクニックを繰り出した。 それに私がくぎ付けになっていたところで、山田改めヤマちゃんが相沢に声をかけた。 「なー、アキー。明日の土日、練習できるー?」 相沢はゆっくり顔を上げ、最後にはじいた弦の余韻を残しながら、頭の上で大きくバツを作った。 「出来ませーん。だって俺、桜花の学祭行くもん」 「えっ!まじでっ!?俺も行きたい!」 「おれもいきてーし!」 「俺も俺も!一緒に行こうぜ、アキ!」 桜花とは街の東のはずれにある桜花学園という高校。 どうやらそこの学祭があるらしい。 騒ぐ三山トリオを相沢は見据え、さっき作ったバツをもう一度作った。 「だめー。俺、バンドメンバーと行くから」 「いいじゃん、俺らもBSとご一緒させて!」 「ダメ。っつーか、お前らちゃんと練習しろ!」
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!