3/4
前へ
/108ページ
次へ
「……やっぱり、渡瀬だ」 「……っ、相沢、」 振り返った彼は、ゆっくり微笑んだ。 「覚えててくれたんだ?」 「覚えてるよ、もちろん。だって、」 「うん?」 「相沢のギターがっ、」 口に出した途端、頭の中に相沢との沢山の思い出が溢れ出す。 息がつまり口を噤んだ私に、相沢は微笑みを深くした。 「懐かしいよなぁ……俺はもう殆ど毎日、自分のバンドの事でいっぱいでさ、」 「っ、」 「でも、チュウたちと学祭で組んだのも、アレはアレですげー楽しかったって、今更、思ってるんだ」 フッと窓の外に視線を向ける姿は、あの頃の相沢より、ずっとずっと大人びて、ずっとずっと自信に満ち溢れていて、ずっとずっとカッコイイと思う。 じっと見つめる私を振り返り、相沢は数秒見つめると手招きした。 ゆっくり歩いて、近くまで。 相沢は鞄を漁って何かを取り出すと、私の方へ向けた。 「俺らの新譜。去年出してたんだけど、多分、知らないだろ?」 「……知らなかった」 「勉強頑張ってたもんな」 「……うん」 「それ、合格のお祝い」 ほら、と少し押し出されて、私はそれを受け取った。 裏には天使が舞い降りる。 変わらないその後ろ姿に頬が緩んだ。 「ウチのエンジェル、可愛いだろ?」 「うん、」 「彼女さ、高校入学するタイミングで、この街に引っ越してきたんだ」 相沢は、天使の後ろ姿を見つめながら、懐かしそうに目を細めた。 「俺ら高校別になる事で、解散するかどうかの瀬戸際でさ。後はもう、レン次第、みたいなところで彼女とレンが出逢ったんだ」 「……、」 「彼女が突然目の前に現れて、レンは本当に彼女が天使に見えたんだって」 「……だって凄く可愛いもん」 「な。彼女が現れてから、俺ら、いいこと尽くし」 じゃあ、彼女は本当に天使だったんだ。 ライブハウスで見かける小柄な姿を思い出した。 「だけど、俺らは……レンは彼女を置いて行く」 「……え、」 「やっぱりさ……付き合ってる彼女とか好きな子と“別れる”っての、すげーダメージだよな」 「……っ、」 「だからさ……渡瀬は……見送りには、来るなよ?」
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

136人が本棚に入れています
本棚に追加