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「……やっぱり、渡瀬だ」
「……っ、相沢、」
振り返った彼は、ゆっくり微笑んだ。
「覚えててくれたんだ?」
「覚えてるよ、もちろん。だって、」
「うん?」
「相沢のギターがっ、」
口に出した途端、頭の中に相沢との沢山の思い出が溢れ出す。
息がつまり口を噤んだ私に、相沢は微笑みを深くした。
「懐かしいよなぁ……俺はもう殆ど毎日、自分のバンドの事でいっぱいでさ、」
「っ、」
「でも、チュウたちと学祭で組んだのも、アレはアレですげー楽しかったって、今更、思ってるんだ」
フッと窓の外に視線を向ける姿は、あの頃の相沢より、ずっとずっと大人びて、ずっとずっと自信に満ち溢れていて、ずっとずっとカッコイイと思う。
じっと見つめる私を振り返り、相沢は数秒見つめると手招きした。
ゆっくり歩いて、近くまで。
相沢は鞄を漁って何かを取り出すと、私の方へ向けた。
「俺らの新譜。去年出してたんだけど、多分、知らないだろ?」
「……知らなかった」
「勉強頑張ってたもんな」
「……うん」
「それ、合格のお祝い」
ほら、と少し押し出されて、私はそれを受け取った。
裏には天使が舞い降りる。
変わらないその後ろ姿に頬が緩んだ。
「ウチのエンジェル、可愛いだろ?」
「うん、」
「彼女さ、高校入学するタイミングで、この街に引っ越してきたんだ」
相沢は、天使の後ろ姿を見つめながら、懐かしそうに目を細めた。
「俺ら高校別になる事で、解散するかどうかの瀬戸際でさ。後はもう、レン次第、みたいなところで彼女とレンが出逢ったんだ」
「……、」
「彼女が突然目の前に現れて、レンは本当に彼女が天使に見えたんだって」
「……だって凄く可愛いもん」
「な。彼女が現れてから、俺ら、いいこと尽くし」
じゃあ、彼女は本当に天使だったんだ。
ライブハウスで見かける小柄な姿を思い出した。
「だけど、俺らは……レンは彼女を置いて行く」
「……え、」
「やっぱりさ……付き合ってる彼女とか好きな子と“別れる”っての、すげーダメージだよな」
「……っ、」
「だからさ……渡瀬は……見送りには、来るなよ?」
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