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「何を油を売ってんだ」と叫ぼうとして、動きが止まる。
オニクの表情が――
ひどく優しくて――それでいてどこか悲しそうで――
こんな表情――出会ってから初めて見るから――
言葉が出ない……。
「……ん? マチルダ、お前、こんなとこで何やってんだ?」
私の気配に気がついたオニクが不思議そうにしてそう言った。
「それはこっちのセリフ……って、あんたこそこんなとこで何をやってんのよ?」
そう問いかける私に、オニクが笑いながら答えた。
「……マオに会っとった」
「……まお?」
「ん。マオ」
そのまま、オニクが正面の壁を見る。
そこには一枚の絵がかけられていた。
小さなカーテンで隠されたうえに、東屋の中は意外に薄暗くて、よく見えなかったが――どうやら女性の絵らしい。
「マオが描いた絵だ」
誰に言うでもなく、オニクが呟いた。
「マオ……さんっていうのは、クリエイターなの? あ、いや、マオが描いた絵だって言ったから……」
「うんにゃ。アホの子だ」
「アホの子って……」
突っ込んでやろうとすると、オニクが被せるようにして言った。
「もう……この世にはおらんけどな」
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