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「……てな訳で、今こんな事をやっててさ。何かネタになりそうな怖い話を知ってたら、是非とも教えてもらいたいんだけど」
数ヶ月振りに顔を出した実家のリビングで、出されたコーヒーに口をつけながら言う。
「お前は……相変わらずそんな事やってんのかい」
ため息混じりにそう言葉を発したのは母親だ。そうは言いますがね、おふくろ殿。私をこの道に引き摺り込んだのは、貴女のようなもんなんですぜ?
私の怖い話好き、ホラー好き、オカルト好きは母親の影響が大きい。かの有名な怪奇番組『あなたの○○ない世界』の熱心な視聴者だった母親が、自分1人だけで視るのは怖いという理由で小学校低学年だった頃から一緒に視るようになっていたのだから。
「これはね、もう私の人生の一部だよ」
「何をエラそうな事言ってんの。たかが趣味の話でしょうに」
「いやいやいや、その『たかが』趣味から、もしかしたらとんでもないモノが生まれるかもしれないよ」
そんな事を言い合っていると、散歩から帰ってきた父親がリビングに顔を出す。
「おう、来てたのか。どうだ、最近の調子は」
母にお茶を頼むと、私の正面に腰を降ろして話しかけてくる。
「うーん、こんな御時世だからね。仕事そのものは減ってきてるよ。そういうお父さんの方はどうなのさ」
若い頃は自営の調査事務所を構えていた父だが、年齢的にも肉体的にも体力的にも厳しくなってきたからと、探偵業の免許を返上し、今ではタクシードライバーをやっている。
「そうだ、お父さんに聞いてみればいいじゃない。何か面白い話があるかもよ?」
湯気を立てる熱いお茶を父親に差し出し、母もテーブルにつく。こうやって親子で話をするのは、いつ以来の事だろうか。
「あん? 何の話だよ」
不思議そうな顔をする父親に、母親がこれまでの経緯を語る。まあ、要約すれば『怖い物好きなコイツが欲しがるようなネタを与えてやってくれ』という事なのだが。正直、私は父親の話にそれほど期待を寄せていた訳ではない。
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