怪談DJシリーズ「タクシードライバー」

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 そもそも父は怖い話や幽霊話をあまり信じてはいない。完全なる心霊否定派ではない。「自分の目で見ていないモノは信じない」というスタンスなのだ。だが私は知っている。本当にそんなモノを見てしまうのが怖くて「見えないモノは信じない」と言っているのだ。要は「検査をして病気が見つかると嫌だから病院に行かない」との主張と同じ類のものか。──いや、違うか。 「そうだなぁ。そういった経験はないと思うけど。現実的に怖い話なら、いくつかあるぞ」  お茶をすすりながら父が私を見る。 「リアルに怖い話ってぇと、張り込みをして周辺住民に怪しまれて通報されたり、一緒に仕事をしていた相棒が『その筋の人達』に因縁をつけたと勘違いされて事務所に連れ込まれたり、車を停めて帰った次の日に、近くで起こった殺人事件の容疑者として連れて行かれそうになったって話?」  私はコーヒーマグを口に運びながら、上目遣いに父親の様子を伺った。 「良く覚えてるな。他には都内での尾行調査がサミット開催時で、不審者と間違われて職質かけられたりとかな。あ、3億円事件の時にバイクに乗ってたせいで検問に引っかかったって話もあるぞ」  あー、うん。それはそれで面白いと思うんだけどね。スマン、親父殿。私が聞きたいのは、そういう話じゃないんだ。  空振りかなー。親父殿に聞いた自分が馬鹿だったよなー。そんな事を考えているのが表情に出てしまったのだろう。母が助け舟を出してくれた。 「あれ、でもお父さん、こないだ変な体験したって言ってたじゃない。ほら、消えた女の人の話」  途端に私は両耳の聴力を最大値まで上げて、身を乗り出した。 「何、なに、ナニ! あるんじゃない、そういネタ! 教えてよ」  おそらくは目をギラつかせているであろう私の姿に、父親は若干腰が引けている。フンフンと鼻息を荒くしている怪談ジャンキーの我が子を前に、父は奇妙な体験を語って聞かせてくれた。  お客さんを目的地まで送り届け、都内を流していた父は、とある私鉄の高架橋手前に立つ人影を確認した。こちらに向かって手を挙げ、停まってほしいと合図を送っている。どうやら若い女性のようだ。急速に暗くなっていく夕暮れ時の中、ちょうど街灯と街灯の中間地点になるらしきその場所は、特に暗さが濃かったという。  ウインカーを点滅させ、速度を落として女性に近づく。タクシーを停めて後部ドアを開き、父は背後を振り返った。
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