怪談DJシリーズ「タクシードライバー」

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「とは言っても、無視するわけにもいかないしな」 「ホント、いい迷惑だよ」  話を聞きながら父は「とうとう幽霊を見てしまった」と、内心穏やかではなかったらしい。実は人一倍怖がりな父は心底憂鬱だったと言う。 「まあ、タクシーを停めても乗り込んでくるわけでもないし、実害はないからな。適当にやり過ごすしかないだろ」というのが皆の共通の認識だった。  それでも乗車したお客さんに場所を指定されれば行かない訳にはいかない。それ以降も何度か例の道を通る機会があったそうだ。と言うか、これまでよりもその場所を通る回数が増えたような気がするらしい。 「本当に嫌なんだよ。だけど、なんでだかその場所までと言って乗り込んでくるお客さんが増えてな。出来るだけ裏道を使ったりするようにはしているんだが、中には嫌な顔をする人もいるだろう? 料金を余計に取ろうとして遠回りしてるんじゃないかとか言われてな」  分かる気がする。通り慣れた道ではなく裏道に入られたりすると、私でさえもちょっと勘繰ってしまうくらいだ。時間によっては裏道を使ってもらった方が早かったり、実はショートカットだったりもするのだが、そうそう好意的に捉えてくれる人ばかりではないのだろう。 「じゃあ、今でもその道で人影を見るんだ?」 「そうだな。毎回っても訳でもないが、まだ見るよ。仕方がないから、一瞬だけスピードを緩めて誰もいないのが分かったらすぐに離れるようにしている」  タクシーにまつわる怪談や都市伝説は多い。一般的に「消える乗客」といえば、乗車してきた客がいつの間にか後部座席から消えてしまうパターンだが、このようなパターンもあるのか。それにしても、多くのドライバーが同じような経験をしているというのが興味深い。 「何をしたいのかが分からない相手が一番やっかいね」  話を聴き終えた母親がそう言って、お茶を淹れ直すためにキッチンへ入っていった。  確かにそうだ。何を主張しているのか分からない相手には対処法も分からない。気をつけて、注意してと言っても、具体的になにをどうすればいいのか。  これ以上は話したくないらしく、無理矢理に話題を変えてきた父がこの話題に触れる事はなかった。  実家で父親から奇妙な話を聞いてから2週間程経ったある日。  自宅でテレビを観ながら寛いでいると、側に放り出してあったスマホが震えた。画面を見ると父からだ。 「もしもし」
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