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まわりはこぞって言う。
尾上助教授の今期のゼミ生は粒ぞろいだ。
一人は学長の甥は数学の天才。
もう一人はネイティブさえ舌を巻く語学の達人。
そしてあと一人は人当たりは柔らかいが頭脳明晰で切れまくったおつむの持ち主。
そのゼミ生三人を束にしても勝ち目がないとされる麗。彼の弱点は身体の弱さだけだった。
「君はビジンだな」
学校内外で数々の視線を浴びるのは日常茶飯でもあったので、こう声をかけられてもさほど動じはしなかった。
『ビジン』のイントネーションが妙で、英語という珍奇なところはあったのだが、いつもは気にも留めない一言に反応する。
「自分のことですか」
問う先には、白黒のバイカラーもはっきりしたシャチのぬいぐるみが、口元を笑顔にして鎮座している。
何故にシャチがこんなところに。
麗はぐっと固まった。
「そう、君だよ」応える声は少しばかり精彩がなかった。
「随分と大きなぬいぐるみですね。お子様へのプレゼントか何かですか」
「自分に子供はいないよ」
はあ、と相手はため息をつく。
あわせて、シャチのぬいぐるみも上下に身体を揺すった。
丸ぽちゃの身体のその男は、ただ太っているのではなく、体型がそうなってしまう西欧人だからそう見えるだけ。まるで北欧のバイキングのように見えるくらいなのだから。
腹話術か何かを見ているようだな。
内心で麗は思った。
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