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はっと正気に戻ったときには、きみはスッカリおとなしくなっていた。
「ゴメンね、美架。僕、つい……。でもさ、きみが悪いんだよ。僕のことをからかうからさ。二度とこんなことはしないでよ。わかった?」
そう言って、仰向けになった顔をさすってやった。前髪が乱れてバラバラだ。それを手櫛で直してあげた。
美架? 僕は、もう怒っていないよ。
だからさ、早く戻っておいで?
家出なんて、こどもみたいな真似をして。大人げないなあ。
眠れないんだ、きみがいないと……。
頭痛がヒドい。
睡眠不足で、脳の裏っ側がピリピリしている。
僕のやさしい美架。
いつもみたいに、膝枕してくれよ。
このごろは、きみがそうしてくれていた過去が夢だったんじゃないか、とすら思えてしまう。
そう思ってしまう自分が怖いんだ。
この二十八日間、僕は外にもでていない。不在の間にきみが帰ってきて、行き違いになると困るから。
幸いにも、ずっと家にいても、食料には不自由しなかった。
冷蔵庫には、パンパンに食肉が詰まっている。
牛でも豚でもない。
なにの肉かは知らないが、鶏肉に近い食感だ。
当分の間、食うには困らない。
「淋しいよ、美架……」
また夜が来る。
ひとりっきりの静かな部屋で。
頭がイタイ。頭がイタイ。
淋しくて、どうにかなりそうだ。
僕を助けて。
(誰か助ケテ。)
ーー僕は、きみの帰りを待っている。
了
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