旅の途中

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話し合いが終わったのか、2人が頷き合いながら何処かを見た。するとピアノの音が鳴り始めた。此処からだと見えにくいが、ピアノがあるらしい。中に入ったものの物陰に隠れるようにして見ているぼくからは、見えにくい。 ああ、近くに行きたい。 でも気付かれてしまう。気付かれるのは、嫌だ。雰囲気を壊したくないし、ぼくの存在を知られたくない気もするし。何故か解らないけれど、そんな感情が浮かんだ。 仕方ない。我慢しよう。 そんな事を考えている間に、2人が歌い出した。 ああ。なんて綺麗な歌声だ。澄んだ歌声とは、きっとこういう声を言うんだ。似たような声質のソプラノ。だけど、やっぱり違うんだ。どちらがどちらの歌声か。それは解らない。でも2人の声がはっきり分かれているのは解る。 1人の声は、ソプラノ特有の細い声。細くて遠くに届く、そう、まるで天から声が降って来るような声。 もう1人の声は、ソプラノ特有というよりは、やや声が太い。ソプラノではあるけれど音に骨太という表現はおかしいかもしれないけれど、骨太のような、そう、それは遠くの誰かに呼びかけるような声。 どちらも綺麗なソプラノなのに、こんなにも違う。
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