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もぞもぞもぞもぞ。
白い毛の生えたボールがゆっくり動き続けて、ぼくは後退る。声も出ない。人間、驚くと声も出ないらしい。腰が引けておっかなびっくりのぼくの姿は、誰かが見ていたら笑うかもしれない。なんて、冷静に思うぼくがいる。
もぞもぞもぞもぞ。動き続けるボール。距離を取ってそれでも目を離さないでいたら、手足が見えた。……手足? と思ったら、頭が。もしかして……動物?
その可能性に気付いたら、大きく息を吐いた。知らず知らず息を詰めていたらしい。安堵した。その場にへたり込みたくなった。脱力した身体でぼんやりと見ていたら、白い子猫が、そこにいた。
ああ、子猫か。丸まれば確かに毛の生えたボールになりそう。
「ミーミー」
子猫が鳴いた。
その鳴き声が聞こえた直後。先程の綺麗な歌声がまた始まった。もっと綺麗な歌声で、優しい優しい風がぼくを包んだような気がした。目を閉じてその歌声に身を委ねる。また、足元がくすぐったくなった。そっと目を開ければ、子猫。
こちらをまん丸な目で見てくる。屈んで、子猫を抱き上げた。その温かさに触れて、ようやくぼくは思い出した。
ああ、そうか。
ぼくは……。
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