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「私が病気で死ぬ?今まで風邪を引いたこともないのに?」
「……」
「大丈夫よ、一静。泣き虫で甘えん坊で、寂しがり屋な貴方を置いてなんて逝かないわ」
「うんっ…」
「それに…」
カナの視線が小さなベランダに向けられる。
そこにはカナが植えた、芽が出たばかりの小さな何かの花。
何の花を植えたの?と聞いたら「内緒っ!」と言って教えてもらえなかったっけ…。
「言ったでしょう?あの花が咲いたら一静に言いたいことがあるって」
カナの視線がベランダから俺に戻ってくる。
「だから、私は絶対に死なないよ」
「カナ…」
安心させるように笑いながら、俺の前髪を撫でるカナの手を止めるように握る。
「いっせ「なんでかなぁー」…え?」
握ったカナの手ごと自分の顔に押しつける。
「なんで俺…こっちの方が夢だって分かっちゃうんだろう」
その手はやっぱり冷たくて、俺の手の熱さがよく分かった。
だから余計に、涙が零れる。
「ハハッなに言ってるのよ。もしかしてまだ寝ぼけてる?」
「…だったらいいけど」
「もう、ほら、泣かないの。男でしょ」
「うん、」
カナの冷たい指が、俺の涙を拭っていく。
それでも涙は止まらない…。
だってもう、気づいちゃってるから。
「なぁ、カナ」
「んー?まだなんかあるの?」
困ったように「これじゃあ、全然掃除できないじゃない」と笑うカナの膝から体を起こして、視線をベランダに移す。
「あのさ、あれ何を植えたのか教えてよ」
「えー、ヤダよ。咲いてからのお楽しみって言ったでしょ」
「うん、だから教えてよ」
「一静…?」
視線をカナに戻す。
いつのまにか差し込んでいた夕日が、カナを縁どるように輝いていた。
きっとまだ、涙が流れ続けているブサイクな顔だろうけど、ニッと笑ってみせる。
「もうあの花咲いたんだよ。カナが死んで、俺頑張って咲かせたんだ」
「、いっせい…」
「だから、教えて?」
悲しそうに微笑んだカナの口が言葉を紡いだ…。
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