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唐突に、あの日のことが蘇ってきた…―。
「何やってんだよ」
「見て分からない?花を植えてるのよ」
「はなぁー?お前が?」
コーヒー片手にベランダを覗けば、狭いスペースでちょこまかと作業をするカナ。
大きな鉢植えに、芽が出たばかりといわんばかりの小さな苗を植えていた。
「それ、なんて花?」
「え、」
俺を見上げたカナは、しばらく考えた後、照れくさそうに、
「んー、内緒っ!咲いてからのお楽しみだよ」
と笑って、作業に没頭し始めた。
カナの隣に腰を下ろす。
「なーカナさんや」
「なんですか?一静さん」
「そろそろ一静さんお腹が空いてきたんですけど」
「あら、それは大変ね。パンでも食べられたらどうですか?」
こいつ…。
花を植える作業が楽しいのか、まったくかまってくれないカナ。
いじけてやろうかな、と不貞腐れたような気分になっていると、カナが顔に土をつけたまま照れくさそうに口を開いた。
「あ、あのさ、一静」
「んー」
「この、花が咲いたらね、その…」
「なんだよ?」
「だからね!」
意を決したように、カナがキッと目に力を込めて俺を見上げてきた。
「この!花が咲いたら、一静に言いたいことがあるの!」
「俺に…?」
「そう!」
その気迫にちょっとたじろぎながらも、小さく頷く。
カナは、嬉しそうに笑っていた…。
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