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暗いと思っていた水の中は、驚くほど明るい。
息苦しさも無い。ふわふわと漂う様々な色の泡の隙間を流れ落ち、ユメイは一度、辺りを見回した。
此処が隔離された空間である事に変わりはない。
何と無く押し寄せる孤独感から、既にミナギより語られた想定を前に、僅かに身構えている己が居る。
(人の気配はしないけど……)
思えば、丸っきり一人で行動するのは久し振りである。
何があるわけでもないのだが、滑り落ちていく侭に、理由の無い不安が増していくのだ。
(大丈夫だ。絶対に大丈夫!)
泡へ僅かに自分の姿が反射している所為かも知れない。
視界に入るのはほんの一瞬だが、其れを全て、「知らない誰か」だと頭が誤認している。
ユメイは見る。
反射する一瞬の己を、素早く確認していく。
間違い無く全て自分だ。
(…よし!)
不安を避けていくと、少しずつ泡が減り、一粒が大きくなった。ぶつかると程好い弾力があるので、今度は其れを足場にして下へ降りていく。
(この泡…ひょっとして、“風”なのかな)
自分の感情に呼応している気がする。
顕現した時の感覚を少しずつ、思い出す。
(だったら、もう少し…)
泡にゆっくり触れる。
何と無く、あたたかい気がした。
“怖くない”。
泡に映る己に言い聞かせると、じわりと温度が増す。やはり呼応しているのだ。
不安が瞬く間に消えていく。
泡はやさしく弾けて、ユメイを更に下へと押し流した。
「わっ…」
漸く底へ辿り着く。
滑り込む様に、ユメイはいつかの朝のまま逆さまになって空間を見渡した。
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