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意識を失うまま、夢の中でユメイは、見知らぬ荒野の最果てに向かい、走っている。
息が切れそうな意識の中に、砂利を踏み潰す感覚が混じる。痛みより先に、右手から離れた何かが激しく地面に倒れ込んだ。
左手には、鉱石の様な、艶やかな石を持っていた。
透明で、見覚えがある様な、無い様な、不思議な輝きを放つ石。掌よりは僅かに余る大きさ。全体に真新しい赤が滴っている。すぐに解った。これは血だ。震える手。しっかり持っていないと、落としてしまいそうになる。
「…逃げ…るんだ……早く…」
声に振り向くと、其処には白い衣を纏った白髪の青年が腹部を血に染め倒れている。
確かめると己は黒い着物を纏っていた。ユメイは気付く。此れは過去だ。物言わぬ白夜(影)が己の意識を奪い、【昔】を見せている。
「君を置いては行けない!」
「其の石が在る限り…僕はまた蘇る、構わず置いて行け。其れより君の方が心配だ。護らせてばかりで済まないが…必ず其の石を…在るべき場所へ運んでくれ…」
「“スイ”…!」
「…行け…“アンジュ”……僕らの存在を繋ぐ風の石…あの人間にだけは渡すな。絶対に……死ぬ…な……」
「スイ!!!」
白い青年は、間も無く事切れた。
何処と無く親友の顔に似ている気がする。本人と彩りは多少異なるが、彼も天人だろうか。残念ながら考える余裕は無い。
「追い詰めたぞ…全く世話の焼ける」
荒んだ風が報せる。
見ると一人の男が、自分を睨み付けながら迫って来た。間も無く左手を差し出し、荒々しい口調でこう続ける。
「其の石は我等の秩序を取り持つ【陛】…子を宿したお前の身には重かろう。こちらに渡して貰うぞ」
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