2人が本棚に入れています
本棚に追加
ジェレフ兄弟等が居るロカンタより、数百メートル離れた辺りの路肩に、一台のタクシーが停まっている。
そこは、ちょうど急カーブの箇所で、路肩と言っても、結構なスペースがあり、無断駐車の車が幾台も留めてあった。
「ロカンタの外に若い欧米人風の男女が一組…」運転席のアリ チチェックが後部座席に伏せて隠れているウールに言った「他に人影らしきものは見えない」
「シルバーメタリックのサーブが停まってるだろう?」ウールが応える「その中には何人乗ってる?」
「前には誰も乗ってないが、後ろの席はよく見えない」とアリ チチェック
「よく見てくれ」
「なあ、ウール」アリは落ち着いた声で言う「仮に、あの車に日本人の女が乗っていたとしても、それは本人の意思で乗ったんだろう?しかも、元々あの車の中のブルガリア人と二人で、その店にも出向いた訳だ。少し頭を冷やして、冷静に考え直してみてはどうだ?」
「ああ…」後部座席からウールの生返事が帰って来る
しかし、アリの言葉はウールの心には届いていなかった。
由香を救わなければ…
ウールは6日前の出来事を思い出していた。
それは普段と変わらない夜の始まりだった。
その日ウールは宵の口から“ヴィンリーのbar”を訪ねた。
別に珍しい事ではないのだが、最近ネオナチ風の若者が出入りしている事は承知していた。
最初のコメントを投稿しよう!