(1)静かな夜の悲劇 ①

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ジェレフ兄弟等が居るロカンタより、数百メートル離れた辺りの路肩に、一台のタクシーが停まっている。 そこは、ちょうど急カーブの箇所で、路肩と言っても、結構なスペースがあり、無断駐車の車が幾台も留めてあった。 「ロカンタの外に若い欧米人風の男女が一組…」運転席のアリ チチェックが後部座席に伏せて隠れているウールに言った「他に人影らしきものは見えない」 「シルバーメタリックのサーブが停まってるだろう?」ウールが応える「その中には何人乗ってる?」 「前には誰も乗ってないが、後ろの席はよく見えない」とアリ チチェック 「よく見てくれ」 「なあ、ウール」アリは落ち着いた声で言う「仮に、あの車に日本人の女が乗っていたとしても、それは本人の意思で乗ったんだろう?しかも、元々あの車の中のブルガリア人と二人で、その店にも出向いた訳だ。少し頭を冷やして、冷静に考え直してみてはどうだ?」 「ああ…」後部座席からウールの生返事が帰って来る しかし、アリの言葉はウールの心には届いていなかった。 由香を救わなければ… ウールは6日前の出来事を思い出していた。 それは普段と変わらない夜の始まりだった。 その日ウールは宵の口から“ヴィンリーのbar”を訪ねた。 別に珍しい事ではないのだが、最近ネオナチ風の若者が出入りしている事は承知していた。
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