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それはウールにとって、取り返しのつかない、大きな出来事だった。
思い出す事さえ憚られる瞬間。
忘れてしまいたい感触。
イヴァンが言ったとおり、ウールは一人の人間を殺めていた。
しかも僅か3日前の話である。
そして、その相手こそ、正にイヴァンとグリゴールの弟、イリア ジェレフであり、その年齢は、まだ僅か14歳であった。
その日、ウールは陽が暮れかかって、辺りが仄暗くなり始めた頃、“ヴィンリーのbar”に行った。
普段であれば、開いたばかりの誰も居ない店の中で、ヴィンリーが一人カウンターの奥の席に座り新聞を読んでいて、そしてウールが入って行くとチラリと上目使いに見て、更にウールが右手を軽く挙げると小さく頷いて返し、再び視線を新聞に戻す、それはウールが一日の中で一番好きな時間だった。
その同じ時間帯である。
しかし、ドアが開かない。
確かに、立て付けは悪く、重いドアではあるが、しかし明らかに鍵がかかっている。
ノックをして、暫く待ってみても、何ら応答がない。
ウールは、出直して来よう思い、一度はそこを立ち去ろうとした。
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