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ウールは、その時、自分自身の意思とは関係のない、何か別の力に、突き動かされている様な気がした。
息づかいが荒くなる
路地はもう目の前だ
足を止めると、心音まで聞こえて来そうな気になる。高まる呼吸を整え、右手でコートの内ポケットのワルサーを握った。
待ったなしだ
ビルの端から路地の方を、そっと覗く
少しずつ視野を広げる
居た
若い男の背中が見えた
咄嗟に建物の陰に戻っていた
内ポケットから、ワルサーPPKを抜いて構える
本物の心音が響いている
再び息づかいが荒くなる
その息を止めて…
覗く
若い男の後ろ姿が見える
そして、殆んど同時に、その右手のピストルが目に入った
その向こうにヴィンリーの顔が見えた…
次の瞬間、ウールはワルサーを構えて、建物の陰から躍り出る
ヴィンリーが気づいて何か叫んだ…
若い男が振り返る
右手の銃が見える
後は
引き金の感触
男の倒れてゆく姿
この二つが別々に切り離されて、ウールの記憶の中に残っている
ただ、それだけだった。
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