(1)静かな夜の悲劇 ①

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ウールは、その時、自分自身の意思とは関係のない、何か別の力に、突き動かされている様な気がした。 息づかいが荒くなる 路地はもう目の前だ 足を止めると、心音まで聞こえて来そうな気になる。高まる呼吸を整え、右手でコートの内ポケットのワルサーを握った。 待ったなしだ ビルの端から路地の方を、そっと覗く 少しずつ視野を広げる 居た 若い男の背中が見えた 咄嗟に建物の陰に戻っていた 内ポケットから、ワルサーPPKを抜いて構える 本物の心音が響いている 再び息づかいが荒くなる その息を止めて… 覗く 若い男の後ろ姿が見える そして、殆んど同時に、その右手のピストルが目に入った その向こうにヴィンリーの顔が見えた… 次の瞬間、ウールはワルサーを構えて、建物の陰から躍り出る ヴィンリーが気づいて何か叫んだ… 若い男が振り返る 右手の銃が見える 後は 引き金の感触 男の倒れてゆく姿 この二つが別々に切り離されて、ウールの記憶の中に残っている ただ、それだけだった。  
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