第四章   豊   ~明かされた過去~

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「そうか。豊、お前本当に最近顔つきが変わってきたもんな。落ち着きが出てきたというか、自信がにじみ出てきたというか」 「そう? さっきバイト先の店長からも似たようなことを言われた」  自分でも驚くくらい無邪気な声を出していた。確かに僕自身少しずつ手ごたえを感じていた。先日キャンパスで真理絵に会った際に僕のほうからおはようと声を掛けると、驚きの余り彼女は一瞬言葉を失い、今にも涙を流しそうな気配すら見せていた。  挨拶一つで自分をよく知る人間からここまでのリアクションを受けるということが、逆にそれまでの自分の情けなさ、未熟さを深く思い知らされて少々複雑ではあったけど、それでも僕からすると大きくて大切な一歩ではあった。 「本当にコーディネーターの仕事を引き受けて良かったと思う」  僕がしみじみ呟くと、 「そうか。そう言われるとわしもほんま嬉しい。ほんま若い人は成長が速いな。多分、お前がこれまで味わってきた様々なマイナスというか苦難が、コーディネーターをやる上で生きてるんやろな」 「そう言われてみると……そうかもしれない」  意外な発見だった。自分が非嫡出子として生まれたこと、母親が幼い頃に亡くなってその後は施設で育ったことを、藤村さんにはすでに話してあった。僕がこれまで歩いた道にいつもどんよりと影を落としてきた、他の誰かの身の上と出来れば丸ごと取り替えたいと常に願ってきた、自分にとってまさに生き恥であり汚点にしかなりえないと思い込んできたものが、まさかこんな風に何かの役に立つなんて、それこそ青天の霹靂だった。これもひょっとすると、僕にとっては内なる資源と呼べるものだったのだろうか? 「何と言うのかな、自分でも気がつかないうちに培ったものが力になりうるんだな、という感覚があるし、それだけじゃなくて、知らないうちに自分自身で閉ざしていたんだな、という気持ちもある」 「どういうこっちゃ? お前急に難しいこと言うな」 「これまでのマイナスが役立ったなという実感と、それに囚われ過ぎて、これまで他人のことがまるで見えてなかったな、という思いの両方があった。前に藤村さんから言われた、他人というフィルターなしに自分というものを見つめ直せないという言葉、今ではすごく納得できる」 「……そうか」
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