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深緑を彩る木々と古びた民家が幾つか並ぶとある村。
人間は妖怪を見ることが叶わず、妖怪もそんな人間達に構わず、あるいは構うことでも好き放題やらかす。そんなありふれた日常の情景が流れていた。
子供が数人外で駆け回ってはしゃいで、父親とおぼしき男が洗濯を手伝えだの言って叱って。その側で小さな鬼がいたずらを仕掛けていることなんて全く気付かない。
別の場所では狩りに向かう男を見送る女がいて、もうすぐ出産する大きな腹を優しく撫でている。鎌を持った大柄な妖怪が腹を切り裂こうとしてることなど知らずに。
また別の場所では破れた着物を繕っている女の手先に興味津々な小物妖怪がその女から一向に離れなかったり、出来立ての飯をつまみ食いする妖怪もいたり、遠くから村の様子を興味無さげに傍観している妖怪までいる。
そうやって異形の者と無力な人間が知らず知らずのうちに交わっている場所で、“俺”は息を潜めていた。
「おい!聞いたか?例のアイツがこの辺に来てるらしいぞ」
がさがさと音を鳴らしながら村の近くにある森を歩く毛玉みたいな頭に筋肉質な体躯のやたらと口がデカい妖怪がそのナリに似合わず小声で言った。
「アイツって?」
その隣を歩く全身糸か紐でできてるようなヒョロヒョロ妖怪が問う。それにまた小声で返した毛玉妖怪。
「ほら、アイツだよアイツ!“白い悪魔”!」
今ではすっかり浸透したその通り名が耳に入り、ぐっと眉根を寄せる。
……チッ。またそれか。嫌に有名になったもんだ。
嫌悪で顔を歪め、自分でも知らぬ内に毛玉筋肉妖怪と紐妖怪相手に殺気が滲み出る。
「な、なんかここ、ヤバイ気がするんだけど……」
「あ、ああ……早いとこ行こうぜ」
俺の殺気を肌で感じ取ったのか、そそくさと森の奥深くへと小走りするそいつらを睨むように眺めて、やがてすっと瞼を閉じた。
「……はぁ」
口から勝手にため息が溢れる。
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