一、

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「確かおまえ、大学ではコンピューターのなにかを勉強していたんだろう?」 「───いえ…電子工学です」 「なんでもいいが、私や組の者よりコンピューターとかいうのを使えるだろう? だからおまえに決めた、うちの情報戦の大将になってもらう」 「は……はぁ…」  意味の掴めていない様子の滝に、左京は見ていた書類を渡した。 「なんですか?」 「読めば分かる。その人物とコンタクトをとって、火焔会の人間にしてしまえ。それが無理なら協力者というだけでもいい、おまえに一任する」  左京はまたにっこり笑った。  言いたいことを言ってしまうと、いつも左京は笑って誤魔化そうとする。それが分かっていて誤魔化される自分もどうしたものかと滝は思うが、火焔会の人間はみんな同じような傾向にあるのでそういうものなのかと思わないでもない。それとも、もしかすると左京の容姿は単に滝の好みで、そのせいで滝は左京に逆らえないのかもしれないが。  渡された書類に、滝もざっと目を通した。 「……コードネーム・Y? 写真も無いんですか?」 「その名前はもちろん裏のもので、表では矢島と名乗っているようだ。裏の依頼には裏の情報を、表ではフリーのコンピューター・プログラマー、二つの顔を持つ男だ」 「───この男と会う方法は?」 「ああそれは簡単だ、事務所を持っているから電話でもしてから会いにいけばいい。事務所といっても、裏の方は非合法だがな」  簡単に言う左京に、無茶を言うと滝は思う。それでも滝は、左京の言葉には逆らえないのだから仕方がない。 「分かりました───努力してみます」 「期待しているよ、滝」  左京は満足げな笑顔を浮かべた。  今回の用事はこの一件のみのようで、左京は滝に食事を一緒にと誘った。それだけでなく、東京滞在中の宿泊に不破邸を使いなさいとまで言い出した。しかし滝は、すぐにYの調査に入りたいからと、そのどれをもやんわりと断った。  Yという男についての初期調査書類と、契約や諸経費などに充てるための当座の資金を左京から受け取り、滝は早々に不破邸を出た。
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