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遠いため、そちらの顔やいでたちは判らない。ただ、全体的に赤い色をしていることだけが見てとれる。
二人もいるの?
新たな事実に驚く私の視界で、手前の影がまたこちらに向き直った。同時に、その口が動いて見えた。
雨の日、出るな。アレが、来る。
声が聞こえた訳じゃない。でも、確かにそう言われた。
雨足が弱くなる。一時の通り雨が止んで行く。
空が晴れ、世界に日差しが戻って来た。だけど私は身じろぐこともできず、さっきまで人影のいた一点を見据えていた。
…それからも、やはり雨は嫌いだし、可能な限り雨の日には外出を避けるようにしている。
でも、私の、あの人影に対する意識は変わった。
今でも仕方のない雨天の外出時に、雨の向こうに人影をみる。けれど私はもう、それを怖いとも気味が悪いとも思わない。
だってあれは忠告だった。口ぶりも態度も、私を何かから守ろうとしてくれてのものだった。
だから私は可能な限りそれを守り、必要な時以外は、雨の日には出歩かない。
私を守ろうとしてくれているあの人影の向こうに、私を狙っているらしい、もう一人の何かがいることを知ったから。
雨の中に、ぼんやりと浮かぶ人影。その向こう側の人影を、もう二度と見ることがありませんように。雨の中、いつも私はそう祈る。
雨の向こう…完
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