雨の向こう

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雨の向こう

 子供の頃から雨の日が嫌いだ。  濡れるとか気分が重々しくなるとか、そういうこともあるけれど、はっきりとした理由が一つある。  雨の中に、決まって人影が見える。私が雨を嫌うのはそのせいだ。  たいていは遠めにぼんやりと見えているだけだけれど、雨が激しさを増すと人影は近くなった。土砂降りの時などは、手を伸ばせば届きそうな位置まで近づいていて、なのに顔がろくに見えないから、人影が怖くて仕方がない。  だから私は雨が嫌いで、仕事や、どうしても外せない用事の時以外は、雨天の外出は控えるようにしていた。  でも今日は、運悪く出先で雨に降られてしまった。  天気予報では一日晴れの筈だったのに、突然空が暗くなり、すぐさま大粒の雨が降り出した。  幸い、バス停が屋根付きだったので濡れずにすんだけれど、コンビニなどなら他に気を逸らせるのに、ここでは外を見ることしかできない。  叩きつけるように雨が降る。そこに、またあの人影が現れる。  気味が悪くて、いつものように眼を伏せた。でもどうしてか、この日の私は、変に前向きな気持になっていた。  一度、じっくりと人影を見てやったらどうなるのだろう。  雨で見にくいけれど、距離が近づけば人影は随分とはっきり見えるようになる。  どんな顔をしているのか確かめるだけでも、何か、出現する理由が判るかもしれない。  怖さはあったけれど、勇気を出して顔を上げた。  …近い位置にいる。こっちを見ているのが判る。それでも目を逸らしたりはしない。じっと見据えて正体を確かめてやる。  人影は男のようだった。見つめる私をじっと見返している。  その顔が、ふいに後ろを向いた。私もつられて人影の背後に視線を向ける。…そこに、もう一つの人影があった。
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