逢魔が刻

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   彼は酒瓶を片手に木の枝に腰かけ、どこか遠くを見つめていた。  やがてこちらの視線に気づいたのか、羽織と同じ赤紫色の瞳が白月を見下ろす。 「やば、気づかれちまったか」  その黒髪のように艶やかだが低めの声は、一言「参った」と呟き木の枝から飛び下りた。  ふわり、目の前に着地した彼は顔を寄せ、威嚇するかの如く唸り声を上げた。口の端から尖った犬歯が覗く。  暗くてはっきりとは窺えなかったが『人ではないもの』その雰囲気だけは伝わってきた。  
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