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「違います!」
ひと口煽って、勢いよく下ろしたグラスがカウンターで派手な音を鳴らした。
「だってさ、矢野さんよりも間宮さんの話の方が断然多いんだもの」
「それは亨には腹立つことばっかされてるからでっ」
「ほら、その顔も。間宮さんの話してる時の方が感情豊か。言ったじゃない、恋する乙女にしか見えないって」
あが。と、開いた口が塞がらなくて。
それは、呆れたというよりも……反論に困ったからだ。
言い返す言葉が見つからない。
「矢野さんのこと好きだったのは確かなんだろうけど、間宮さんのことも気になってしょうがないんでしょ」
焼き鳥の串をくるくると私の目の前で回した。
私はそれを、目で追いながら、頭の中がくるくると自問自答している。
確かに、このところ私は矢野さんに思い焦がれるよりも、亨のことで頭を悩ましていた事の方が多い。
それは確かだが……でもそれはあの人が腹が立つことばっか言うからで。
「……断じて、恋とか、では」
「ま、恋なんて頭で考えるもんじゃないわよ。気づけば落っこちてるもんだし」
語尾に迷いが出始めた私に畳み掛けるようにそう言った原口さんが、なんだかとても大人に見えた。
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