すきじゃない。９話

気づけば落ちているんだそうです。

「はぁ……相田先輩に、その……そんな一面があるなんて知りませんでした」

矢野さんの様子から、喧嘩そのものはそれほど堪えていないように見える。
拗ねた彼女を『しょうがないな』ってほとぼりが冷めるのを待っているようにさえ感じて、つい本音を言ってしまった。

「ほんと、ゴメン。あいつ……前から倉本のことになるとムキになるというか……倉本が間宮と付き合い始めた日にさ、出会った同僚にぺらぺら喋っちゃっただろ。……言って良いことと悪いことの区別くらい、普段はちゃんとつく奴なんだけど」

「それって、倉本さんにヤキモチ妬いてるってことですか？」

それまで黙って聞いていた原口さんが、急に口を出した。
原口さんの言葉に、矢野さんが気まずそうに唇を歪ませる。

「……多分。ちょっと、変な心配してるだけ、なんだけどな」

そう、言いづらそうに口ごもる。

相田先輩が抱えてる、変な心配。
話の流れから、思いつくのは一つだけで、私は胸がひやりとした。