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プロローグ
チリン――。
ひろい暗闇が、鈴の音だけを木霊させる。
長く閉じていた目をふっと開ければ、神殿の奥にすでに〈ソレ〉はいた。
〈ソレ〉は、ボクが、ずっと拒んでいたモノで、ボクが、ずっと待ち望んでいたモノ。
〈ソレ〉は揺らめきながら、じっとボクを、みつめつづけた。
「ヤシロ、準備はよいな」
ボクの一歩後ろで、村長(むらおさ)のかたい声が響いた。震える膝を叱咤し、立ち上がることでそれに応える。
儀式は、すでに始まっている。
ずっと、この日が訪れなければいいと思っていたはずなのに、どうしてか、この瞬間、高揚を抑えきれない自分がいることに、ボクは気付いていた。
〈ソレ〉を見ていると、姉さまとの会話を思い出す。それは神殿籠もりをしていた、三日前のこと。姉さまがふとボクに訊ねた時のことだ。
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